アニマルスパイツーリング【トリシティ300とXSR155】の旅3

ツーリング
大人な街並みにも溶け込む

旅も後半に差し掛かり、我々の疲労度も心地よく高まっていく。遊び疲れはやはり格別だ。ここまでで約800キロほどの道程には、思い出深い様々な出会いもあった。3輪のマシンたちは疲れた我々を乗せて、新天地へと歩を進めていく。

ナナハン君は無事食事にありつけるのか・・

今日のランチ(任務)はこちら、伊賀食堂。独自のルールがあり、破ると追い出されるらしい。ただ、そんなルールは公表されていないらしく、クイズ形式だ。まずはありがちな感じで予想してみよう。

1.食事中に騒がない

これはむしろどこの店でも常識かもしれない。もし食事中に騒いだら他のお客様にも迷惑だ。

ブヒブヒ言わないか心配になってきた。

2.テーブルに肘をつかない

子供の頃にあったテーブルマナー。ルールといえばこれなのか?

木の根を掘るように皿に鼻でほじくり食いしないか心配になってきた。

3.食器をカチャカチャしない。

ちゃんと食器を使うか心配になって来た。

4.食事中に立ち歩かない

トイレが我慢出来るのか心配になって来た。

いくら考えてもマイナスなイメージしか浮かばないので、追い出される前提で入店しよう。

構えて入店するが、特に変わった所はない。気さくな店員さんが、オーダーをしてくれた。本当にルールなどあるのか?

よく見ると、追加オーダーが出来ないらしい。見渡した感じ、その程度だ。テーブルの上には、鉄鍋がひとつ。これは面白いじゃあないか。私は彼らのスパイ適性を試してみる事にした。まず人数分のモツを注文。そこにあえて通常の豚肉を2人前投入。準備OKだ。

溢れるほどの大胆さが食欲をそそる

ガス焼きされた鉄鍋に、食材が投入される。もちろんライスはキョンシー飯(丸く山盛りのご飯のこと。中国では死者に出されるらしい)だ。賢い読者諸君は、この光景を目に焼き付けておいてほしい。全ては、事件を解くキーとなるのだ。

さらにうどんを投入。カオスだ。

ぐちゃぐちゃに煮込まれた食材を前に、各自の実力が試される。煮込まれたモツの匂いが漂う。そこに豚肉が混ざって仕込んであり、うどんがアクセントとなる。幕は切って落とされた。皆が探り箸でソロソロと動き出す。私はその様を注視するのだった。

皆が思い思いに箸を進めていく。私が仕込んだ豚はみるみる消費されていく。やはりな。そして、キャベツの減り様は異常だ。固い芯のみを残して、柔らかい部分は一瞬で消えていった。

この場合、野菜は軽視されがちだ。基本的にこの店は量が少ないので、本心ではみんなたくさん食べたいのだ。しかし、そんな気持ちを悟られずに行動しようとするのもまたヒトの心理である。「あまり肉を食べたら、貪欲に見えてカッコ悪いかなあ」

そんな心の声が聞こえてくる。その一瞬の迷いの間に野菜が消費されるのだ。なんとなく野菜なら許されると本能的に思ってしまい、口寂しさにキャベツをせっせと食む(はむ)のだ。私のように、日頃から食卓に別の組織のスパイを探している者には、鍋の中のキャベツの減る速度で大体のメンツの正体は掴めてしまう。そこで投入した豚肉の登場だ。やはり迷い箸たちはホルモンより豚肉を選びがちになる。ここにも理由はあるが、今日は読者の皆さんへの宿題としておこう。

そして、鍋の中の残量が少なくなるといよいよ本格的な譲り合いが始まる。

何故ならバレるからだ。

箸の走らせ方一つで、心の有り様は手に取るように分かってしまう。そうなると、皆一様に探り合いを始めるのだ。こうなると手がつけられまい。いつまでも鍋に残る最後のひと口は、皆も見た事があるだろう。中には、テーブルが片付かないから渋々食べるふりをする者や、勿体無いとか言いながら片付けるふりをする者、そもそも危険な戦場には立たずに、誰かが処理するのを待つものなど様々である。しかしここでスパイならではの見抜き方を教えよう。それは、各自のご飯残量を見ればいい。多くの場合ご飯やおかずは比例して減らしていくのが普通だ。残りのライス量=本人がこの後食べるつもりの量なのだ。私はくるりと全員のご飯量を見渡す。それにより、皆の心持ちがわかるのだ。

バンゴリンを見てみると、すでにライスを平らげていた。そういう男なのだ。基本的に周りを優先する、配慮が染み付いているさまがこういう所にも現れていた。そこは良いところでもあり、悪いところでもある。

次に、アルパカ。どうやらあまり箸が進んでいない様子だ。どちらかと言うと、ホルモンという大人の味わいにやられている感じだ。何故か白米のみを黙々と口に運んでいた。豚とキャベツを激減させたのはこの男だったようだ。

ナナハン君を見てみると、意外にも葛藤している様子だった。雰囲気的には「あまり食べると胃がやられる、この空気感を活かしてほどほどを目指すんだ」という自分と、ブヒブヒな自分の間で行ったり来たりして汗をかいていた。大変そうな男だ。

結局この日は肩透かしを食らい、店を後にした。まさか明日あんな料理が私たちを待っているとは知らずに・・・。

続く

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